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     梅酒を造ったり、飲ませたり、の違法性
              2008.2.
                  弁護士  川   村   哲   二

 話題の「船場吉兆」が、酒税法上の許可を得ないで梅酒を製造・販売していたとして、国税局も調べを進めているという報道が以前ありましたが、2月8日の報道によれば、大阪、福岡両国税局が国税犯則取締法に基づいて、船場吉兆と前社長にそれぞれ4万円の罰金相当額を納付するよう通告していたことが分かった、とのことです。そして、5年間に製造した分にかかる酒税計約7万円も追徴課税したらしく、既に全額が納付されているようですね。

 また、昨年(平成19年)5月頃に、自家製果実酒を宿泊客に提供している北海道ニセコ町のペンションが、違法だとして、税務署から没収・廃棄処分を通告されているという報道がありました。

 梅酒などの果実酒に限らず、酒を勝手に造ったり売ったりしてはいけないということは、もちろん法律で規制されています。ただ、どういう法規制かというと、酒税法という税法、つまり、国が国民から税金を取るための法律で決まっていることなのです。
 ですから、酒害から国民の身体の健康を守るというような国民衛生上の規制でもなく、酔っぱらいが危害を加えるのを防ぐというような治安上の規制でもありません。ずばり、税金を取るための規制なのです。これはそもそも、明治政府が多額の軍事費をまかなうために酒に目を付け、そして税収確保のために国民が勝手に作れないようにしたものです。当時は酒税の国税に占める割合が結構高かったようです。この酒税法による規制が現在でも続いていて、今でも、酒税法によって、違法な酒の製造・販売については、税務署が取り締まるわけです。かって、このような自己消費目的の酒造を処罰することは憲法(13条、29条、31条)に違反するとして、闘っておられた有名な人物がおられましたが、裁判所はこのような主張を認めませんでした。

 
【参考】 どぶろく訴訟
      最高裁平成元年12月14日第一小法廷判決
          (刑集43巻13号841頁・判例時報1339号83頁)
       1審 昭和61年3月26日千葉地裁判決
          (判例時報1187号157頁)
       2審 昭和61年9月29日東京高裁判決
    この他、酒税法の規制について憲法違反を争った刑事事件として、
       平成10年5月27日東京高裁判決
          (判例タイムズ992号278頁)
    
が、あります。

 さて、日本酒やビール、ワインなどのように原料をアルコール発酵させて酒を造り出すという場合だけではなく、冒頭の事件でもわかるように、既に商品として一般に販売されているアルコール(焼酎など)に果物を漬け込むだけで新たにアルコール発酵をさせないタイプの果実酒(要するに、梅酒のようなもの)についても酒税法の対象外というわけではなく、一定の規制が及んでいます。
 ここでは、詳しいことは省略しますが、酒税法43条1項、9項、10項、11項あたり(みなし製造)をご覧ください。梅酒などとはちょっと違いますけど、「カクテル」のように混ぜ合わせて作る酒についても問題がありますが、ここでは触れません。
 → 
国税庁サイト「お酒についてのQ&A」参照

 なお、梅酒などについて日常的、一般的な用語としては、「果実酒」と言いますが、酒税法3条8項に書いてある「果実酒等」はちょっと違いますので、酒税法を読まれる場合にはご注意下さい。酒税法上の「果実酒」は、果実を原料にして発酵させた酒類であって、つまりワインがその代表的なものになります。これと区別するために、梅酒などについては「果実混和酒」という言葉があるようです。

 では自分で酒を造りたいから酒造免許を取ろう、と思っても、法律で決められた量を製造することが免許の前提になっています。これが結構大きな数字で、とても自家製造の範囲の量ではありません。したがって、その点だけで、個人的に酒造免許を取ることは事実上無理ということになります。
 私も酒は好きですし、かつて自宅で、ワインのようなものやどぶろくを作ったこともあります。もちろん遠い昔のことですが(笑)。
 簡単に言うと、果汁などの糖分が微生物によって発酵してアルコールに変化していくわけですが、この発酵過程で、ブクブクとたくさん泡がでてくる様子などを見ていると、「酒を醸(かも)しているんだ」というちょっと感動的な気分も味わえるし、手軽なバイオの科学実験として子供の教育にもなると思うのですけどね。酒として美味いかどうかは別として、発酵自体はだれでも簡単にできます。実験だけなら、スーパーで売ってるイースト菌と砂糖水でできます。
 したがって、少量の製造については、せめて自家消費分だけでも法規制からはずしていいと昔から思っています。第一、これらを規制からはずしても、とても市販しているようなおいしいワインや酒ができるはずもありませんし、このごろの安いワインなどを考えればコスト的にも全く見合うものではありませんので、酒造業者・酒販業者の営業に悪影響を与えたりすることもあり得ません。また酒税収入の面から見ても全くと言っていいほど関係はないでしょう。かえって、実際にワインやどぶろくを作ってみると、業者の作っているおいしいワインや日本酒が、いかに芸術品かということがよくわかりました(もちろん遠い昔の記憶です(再び笑))。
 そもそも、このようなことを税法、税金の法律で縛っていること自体が問題だと思うのですよね。上に書いたように、厚生労働省による国民衛生上の規制が必要だというなら理解はできますけど、なんで国税庁から言われなけりゃならないの、というのが自然な感想です。

 ここで、冒頭の「船場吉兆」やニセコのペンションの話に戻りますが、梅酒といえども、法律上例外的に製造が許されているのは自己消費分だけです。小料理屋だとかスナックなどで、お客に出すのは酒税法上、違法とされています。つまり、法律上、例外として認められているのは「酒類の消費者が自ら消費するため」(酒税法43条11項)という場合だけです。
 この規定の文章を厳密に考えれば、自分以外の家族に飲ませるためでも駄目じゃないかとも考えられますが、
国税庁の通達では「同居の親族が消費するためのものを含むものとし、他人の委託を受けて混和するものは含まないものとする。」とされていますので、同居家族のために作る(自家消費する)のはセーフという運用のようです。でも、これによっても、別居している子供とか親戚、あるいは、近所の友人にあげるために作るのは、販売ではなくても、違法ということになります。なお、この国税庁通達では、「自ら」には法人は含まないとされています。
 興味のある方は、酒税法43条(みなし製造)と酒税法施行令50条をよくお読みください。

 昨年出された与党の来年度税制改正大綱に示されているところでは、飲食店などにおいて、一定の要件の下での「みなし製造」規定の不適用の方向での改正方針ということのようです。今の国会に改正案が提出されると報道されていますが、これがその通りに改正されれば、冒頭のニセコのペンションの事案については、今後はセーフとなります。ただし、自分の飲食店などで客に供する場合に限られるようですので、「船場吉兆」のように商品として客に販売するのは、この改正方針であっても合法とはならないことになりますね。
 
(追記)
  平成20年4月30日の改正で、上記のみなし製造の例外規定が施行されました。
  詳しくは、国税庁サイトの解説(お酒に関するQ&A「自家醸造」)をご覧ください。
  これを見ると、どうやら届出の手続がいるようですね。
春陽法律事務所 弁護士 石田文三 川村哲二 昇慶一
法律コラム
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