政府も力を入れ始めた『下請いじめ』対策と下請法
2007.5.
弁護士 川 村 哲 二
この法律コラムの初回の続編みたいな内容になりますが、下請法関連でこの所いくつか動きがありましたので、その紹介ということでお許し下さい。。
4月発表の中小企業白書では、中小企業の業績回復が遅れている現状が指摘され、その原因として、大企業が下請企業に一方的な価格を押しつけるなどの「下請いじめ」の実態があることを取り上げ、取引条件の改善を進める必要性を指摘しています。大企業の景気回復策に隠れた中小企業へのコスト削減圧力が強いことが背景にあります。政府は2月の「成長力底上げ戦略」においても、下請取引の一層の適正化推進が取り上げているところです。
3月には、経済産業大臣と公正取引委員会委員長の連名で、下請代金の支払遅延、下請代金の減額、買いたたき等の行為が行われることのないように、親事業者(約2万社)、関係事業者団体(約560団体)に対し、下請法の遵守の徹底等について要請がなされました。
( 詳しくは → http://www.jftc.go.jp/pressrelease/07.march/070323.pdf )
さらに、4月下旬、公取委は、「中小企業の公正な競争環境整備に関する公正取引委員会の取組について〜『成長力底上げ戦略』を踏まえて〜」を公表し、その中で、「中小企業の適正な取引環境を整備するための取締強化」を挙げています。ここでは、後述の通り、番組制作などの業種を重点分野として、下請法に基づく特別調査を行うものとしています。
( 詳しくは → http://www.jftc.go.jp/pressrelease/07.april/07042602.pdf )
この下請法(したうけほう。正式名称は下請代金支払遅延等防止法。)という法律は、独占禁止法の特別法です。したがって、公取委の所管になります(※ 具体的な内容については → http://www.jftc.go.jp/sitaukepamph.pdf )。
独占禁止法で禁止されている「不公正な取引方法」の指定行為の中に、「優越的地位の濫用」というのがありますが、この「優越的地位の濫用」のうち、特に下請事業者に対しての親事業者からの不当な代金支払い遅延などの不当な行為を規制したものです。親事業者に対して、弱い立場にある下請事業者を保護するために、特別に定められた法律ということになります。この法律には、親事業者に対して、発注書面の交付義務を課したり、下請代金減額、支払い遅延、不当返品の禁止などを規定しています。
このような政府の動きの中で、公取委は、3月、食品事業者(ジャパンファーム)と運送事業者(バンテック首都圏ロジ)の2社に対して、それぞれ下請法4条1項3号(下請代金の減額の禁止)に違反する事実が認められたとして、そのような行為を行わないことなどを命じる勧告を行っています。
どちらの事案も、下請事業者に対して、下請代金の額からこれに一定率を乗じて得た額や一定額を差し引くことにより、下請事業者の責任となる理由がないのに下請代金を減額していたというものです。
さらに4月上旬には、照明器具等製造販売事業者(東芝ライテック)に対して、同様に下請代金減額の禁止に違反するものとして、勧告が出されました。これは、改正下請法施行後、中小企業庁長官からの措置請求(6条)に基づき勧告公表する初めての事案とされています。
なお、最近の法改正もあり、下請法の対象となる取引は、商品の製造や修理の下請や運送などのサービスに関するものに限らず、ソフトウェア、映像コンテンツ、各種デザインなど(情報成果物)の作成(制作)作業を委託するような場合も含まれます。(なお、建設工事の下請は、建設業法の適用となります。)
先日これに関して報道されていたのは、公取委がテレビ番組などの制作やトラック運送、金型製造の業種について、下請法に基づく特別調査をするというものです。番組制作に関していえば、公取委はテレビ局が下請制作会社に対して、必要な費用を負担せずに作り直しをさせるなどの問題があるとみている、とのことです。これは、上に記載した「中小企業の公正な競争環境整備に関する公正取引委員会の取組について」に取り上げられている内容ですが、公取委は既に3年前の平成16年2月に「テレビ番組制作業における下請取引実態と改正下請法の内容─改正下請法の円滑な運用に向けて─」という報告が出ています。
( 詳しくは → http://www.jftc.go.jp/pressrelease/04.february/040213-2.pdf )
このように、下請法は、親事業者のいわゆる「下請いじめ」の行為を規制するものであり、最近は、成長力の底上げということで、政府もこの法律に基づく取締を強化しようとしていることがわかります。もし、中小企業で、このような問題に苦しんでいるケースがあれば、公取委や弁護士に相談してみるのも一法です。
ただ、このような「下請いじめ」も含めた「優越的地位の濫用」行為というのは、違法行為を行っている相手方が、自分より強い企業であるうえ、そこに刃向かえば、取引を停止されたり、不利益な扱いを受け、結局、自分の企業を守るためには黙っておくしかない、という状況にあることが普通です(だからこそ問題なのですが)。もちろん、公取委の相談窓口では、申告者の名前が相手に出ないことを前提にして相談することも可能ですが、それでは、実効性・即効性に欠ける場合が多いかもしれません(私は、それでも、「ダメもと」で申告しておくことも大事だとは思うのですが)。
したがって、独占禁止法違反とか下請法違反とかにかかわらず、小さな企業が、大企業の違法行為を訴え出るということは大変困難な方法であることは間違いありません。私が最近経験した大手金融機関の「優越的地位濫用」事件でも、何社かの中小企業から相談を受け、中には相当ひどい事例もありましたが、そのほとんどは、問題点を十分に理解されながらも結局法的手続きを行うことを決断できず、金融機関の言うままに泣き寝入りしてしまったようです。おそらく、金融機関に文句すら言えない企業も多かったのだろうと想像します。
このような問題状況の打開はなかなか簡単なことではありません。今後考えるべき対策の1つとしては、消費者契約法で認められた「団体訴訟」の制度を独占禁止法などにも導入することです。
これについては、既に、政府の司法制度改革推進計画(平成14年)や消費者基本計画(平成17年)においても、団体訴訟制度の導入について検討を行う旨が決定されているところであり、公取委も、団体訴訟制度の導入に関して検討を行っています。4月下旬には「団体訴訟制度に関する研究会」の発足も公表されており、6月中を目途に報告書を取りまとめて公表することとされています。
この問題について団体訴訟制度を導入するということには、いろいろ考えなければならない点もあり、もちろん、万能薬ではありませんが、前向きに検討してほしいところです。

