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  個人情報保護の一人歩き@
           
              2007.4.
                  弁護士   昇      慶  一

              
 「学校のクラスで、緊急連絡網を作っちゃダメなんですか?」

 しばしば尋ねられる質問です。平成17年4月1日、「個人情報の保護に関する法律」(いわゆる個人情報保護法)が全面施行されて以来、あらゆる分野において、個人情報保護対策が求められていますが、現場では混乱も広がっています。
 私が個人情報保護法関連の研修でお話しするときは、現場の対応が萎縮しないように、できるだけ分かりやすく踏み込んだ解説をするように心がけています。とはいえ、私個人の解釈努力ではどうしようもない「法律の壁」というのもあるんです。その一つが冒頭の質問です…。

 個人情報保護法の規定では、原則として、本人の同意がなければ、個人データ(※)を第三者に提供できないことになっています。逆に言えば、同意が得られれば第三者への情報提供も許されるので、政府も、そして法律策定にかかわった学者たちも、「本人の同意を得て緊急連絡網を作り、配付すればいい。作らないというのは過剰反応だ。」などと言っています(末尾の政府見解のホームページ参照)。しかし…
 「同意」はとれるでしょうか?
 企業からの情報流出、流出名簿を利用した悪徳商法、オレオレ詐欺、インターネット上の誹謗中傷、ストーカーなどなど、個人情報やプライバシーに敏感にならざるをえない事件が多発している昨今、たとえ同じクラスの家庭同士であっても連絡先を公表されるのは気持ち悪いと感じる人たちは大勢います。クラスの半分は同意がとれないなんて、ざらにありえます。クラスの半分しか掲載されていない緊急連絡網なんて、どれだけの意味があるんでしょうか。

 私個人は、クラスの緊急連絡網は積極的に作るべきだと考えています。緊急連絡網は、学校行事の開催、中止といった日常的に起こる連絡にとどまらず、食中毒、集団インフルエンザ、学校に関わる犯罪など、非常に緊急度が高く子どもの安全に資する情報伝達に用いられます。また、クラス内の連帯意識を高めることにより、子ども、学校、家庭が一体となって、あるべき教育を目指す布石ともなるでしょう。
 このような緊急連絡網が担う役割は、重要性が非常に高いものであり、保護者らの「連絡先が他の人に知れると、何となく気持ち悪いな」程度の抽象的な不安感よりも優先されるべきです。したがって、保護者の同意がなくても、学校は把握している個人情報を用いて緊急連絡網リストを作成、配付できるようになればよいと考えます。
 ただ、ドメスティックバイオレンス(DV)の被害を受けた女性が、子どもを連れて逃げて夫から身を隠している場合や、悪質な金融業者の取り立てから身を守ろうとしている場合など、連絡先を公表することにより具体的な危険が差し迫るような例外的な場合に限って、保護者は緊急連絡網への掲載を拒否できると考えたいところです。

 しかし、個人情報保護法では、第三者提供について単なる「本人の同意」を許可条件としています。どういう事情で同意しないのか、あるいは、情報提供の必要性がどのくらいのものなのかといった他の事情が考慮されません。だから私のように、いろんな事情を考えて決めるやり方は、現在の法律に反することになるでしょう。法律の融通がきかないんです。
 結局「緊急連絡網が作れない!」という理解は、決して「過剰」な反応ではありません。個人情報保護法の規定の雑さ故に、緊急連絡網が当たり前には作れなくなっているんです。
 いつになるやら分かりませんが、法律の改正が望まれます。

 どうして、こんなに窮屈な法律ができてしまったのか。本来守られるべきプライバシーや個人情報とは何なのか。いろいろと考えさせられるのですが、その話題は、また次の機会のコラムで。

 

 「個人データ」:個人情報の中でも、帳簿やデータファイル等で整理されたもの。生徒の住所や電話番号などは、多くの場合、帳簿等の形で管理されているので、「個人データ」に該当します。



〔政府の見解〕
 文部科学省のホームページ
  
 http://www.mext.go.jp/b_menu/koukai/kojin.htm
 
 学校での個人情報取扱についての指針などが掲載されています。

 内閣府のホームページ
    
http://www5.cao.go.jp/seikatsu/kojin/
  個人情報保護制度全体についての広報、解説などが掲載されています。

  
※特に名簿の作成については
    http://www5.cao.go.jp/seikatsu/kojin/20060228meibosakusei.pdf



春陽法律事務所 弁護士 石田文三 川村哲二 昇慶一
法律コラム
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