子 供 と 医 療
2008.5.
弁護士 石 田 文 三
子どもの虐待が大きな社会問題となっています。虐待を受けている子ども救うためのさまざまなシステムが作られているのですが、それでも、虐待死を防げないのが現状です。私もこの問題に古くから関わってきた一人として、内心忸怩たるものがあります。ただそうだからといって、虐待の徴候が見つかればすぐに保護するという行き方には、賛成できません。この点は大きな問題であり、いずれ取り上げてみたいと思っていますが、今回は、虐待と関係する法律問題として、子どもと医療の問題をお話しします。これは医療ネグレクトと呼ばれる虐待に関わるもので、医療ネグレクトとは子どもが病気にかかったときに、親が手術等の治療を拒むことをいいます。その理由はさまざまであり、宗教上の信念から手術を拒否する場合や子どもに先天的な障がいがありその子を生きながらえさせることが親として忍びないという場合などもあります。
ところで、子どもに治療を施す場合に、その治療の内容を決めるのは誰なのでしょうか。0歳の乳児であれば、それは親だと言えますし、また幼稚園に通う子どもが注射はいやだと泣き叫んでも、親が認めれば注射をすることになるでしょう。そして未成年者が契約をするには親の同意を得なければならず(民法5条)、親が未成年者を代理して契約を結ぶこともできますから、子どもの治療の内容は、親が子どもに代わって決めるというというのが民法の定めに忠実な考え方だと言えます。しかし子どもといっても、乳幼児から高校生・大学生までさまざまであり、また、手術のように自分の身体にメスを入れるようなことを、子どもの意思と関係なく親が決めることにしていいのでしょうか。こうした観点から、未成年者でも、治療の意味を理解できる年齢(大体16歳以上とされています)に達した場合は、ひとりで医療契約を結ぶことができるという説が有力です。
もっとも一口に医療といっても、問診に始まり、各種の検査を経て、医師が治療方針を決め、それを患者に説明して投薬や生活指導、場合によっては入院や手術を行うなど、さまざまな段階があるわけで、その全ての場面(段階)を一律に決める必要がないのではないかとの考えが生まれています。身体にメスを入れるような治療(「医的侵襲行為」と呼ばれます)と医療「契約」を分けて考えるべきだとされ、成年後見では、成年後見人が医療契約を結ぶが医的侵襲行為の同意は本人が行うものとされています。私はこの考え方を参考にして、子どもの年齢に関わらず、医療契約は親が行う(代理する)けれども、医的侵襲行為の同意については、子どもが16歳以上であれば、子どもの意見が十分に尊重されるべきであると考えています。したがって親と子どもが揃って同意することが望ましいわけですが、最終的に親の意見と子どもの意見とが食い違った場合には、子どもの意思が優先することになります。このように考えるとしても、この問題は、非常に困難な問題につながっています。それは治療の拒否が生命に危険を及ぼすことがありうるからです。憲法が認める自己決定権といえども、生命を失う処置(自殺や同意殺人など)まで認めるものではないことから、治療拒否が生命の危険を伴う場合には、子どもの意思に反してでも、治療を行うことができると考えるべきでしょうか。
以 上