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     時 効 の 話(その1)
                                      2009.2.
                  弁護士  川  村  哲  二

 「時効」という言葉は、日常会話でも使われ、法律家以外の一般市民もみな知っている言葉ですし、ニュースやドラマや小説などでもよくでてきます。法律用語にしては、身近な言葉といえるかもしれません。
 しかし、このように身近な言葉なので、それほど難しい問題はないかというと、決してそうではありません。結構、複雑で、奥が深いものです。

 相談者から「この時効は何年ですか?」と尋ねられることがありますが、相談者ご自身、漠然とした意味合いで「時効」という言葉を使っておられることもあります。相談者のお気持ちからすれば、私の方からズバっと「それは何年です!!」という答えを期待されているのだと思いますが、そう簡単に答えられないケースも結構あるのです。
 また、検索サイト経由で、私のブログに訪問していただく方の中に、「独占禁止法 時効」「景品表示法 時効」というキーワードで来られる方がおられます。これも、何となく気持ちは推測はできますが、独占禁止法なり景品表示法なりの、「何」について「時効」を調べたいのか、また本当にそれは「時効」のことなのか、(法律の専門家ではないので当然なのですが)良くわからないままに検索されているのだろうと思います。

 「時効」といっても、大きく分ければ、刑事事件に関する時効と民事事件に関する時効があり、これは全く別物です。例えば、Aさんに殴られた被害者のBさんが相談者であるとすると、Aさんの傷害罪などの犯罪(刑事事件)についての時効と、BさんからAさんに対する損害賠償請求(民事事件)についての時効は、同じ「時効」といっても制度の目的も異なりますし、まず、その期間が違います。そして、期間を計算する起算点も違い、時効の進行が止まったりする制度も異なります。

 刑事事件の時効については、普通は刑事訴訟法に規定される「公訴時効」のことを指す場合が多いですが、「刑の時効」というのもあって、こちらは刑法に規定されています。

 民事事件の時効については、大きく分けると、「消滅時効」と「取得時効」に分けられ、どちらも基本的には民法の規定によりますが、特に「消滅時効」に関しては商法その他いろいろな法律を見なければならないことも多いのです。また、「消滅時効」と似たような制度に「除斥(じょせき)期間」というのもありますが、これは、専門家以外の方は、ひとまず「消滅時効の親戚みたいなもんだ」くらいに考えておいていただいてよいかと思います(もちろん違いはあるのですが)。

 我々が関与する中で、おそらく最も多いのは民事上の「消滅時効」を検討しなければならないケースですが、これだけに絞っても奥が深く、まだまだ裁判例や学説などを見ても、はっきりとしないケースが多いのです。

 それ以外にも、例えば、上に書いた検索キーワード「独占禁止法 時効」というようなのは、調べている方としては、ひょっとすると、独占禁止法上の公正取引委員会の排除措置などの処分が行われることについて、どれくらい以前の行為まで問題にされるのか、ということを聞いているのかもしれません。あるいは、課徴金の計算がどれくらいの期間か、ということなのかもしれません。これらについては、「時効」という用語は、法律的には適当ではありません(ここでは省略します。)。

 今回は、刑事事件の時効について、少しだけ書いておきたいと思います。
 上に書いたように、これにも「公訴時効」と「刑の時効」があります。ただし、通常、問題になるのは「公訴時効」のほうです。ニュースなどで、たとえば「◎◎殺人事件の時効が成立」という場合には、この「公訴時効」を意味しています。

 一方、「刑の時効」というのは、刑法に規定されており(31条〜)、裁判で刑の言い渡しを受けた者が、法定の期間の経過によりその刑の執行が免除されるという制度のことで、問題になることは少ないと思います。

 ということで、以下は通常問題となる「公訴時効」についての話です。これは、刑事訴訟法に規定されています(250条〜) 。簡単に言ってしまうと、「公訴時効」という名前の通り、犯罪を犯してから一定の期間が経過すれば、もう起訴(公訴の提起)できない、という制度です。

 最近は比較的マシになりましたが、以前の刑事ドラマなどでは、犯罪者が捕まらずに長年逃げていて、時効の期間が終了する直前に、主人公の刑事に追いつめられ捕まってしまうというようなのが、よくありました。しかし、これは間違いです。警察に逮捕されただけでは時効の進行は止まらないのです。期間が終わるまでに、刑事事件として起訴しなければなりません。したがって、いくら犯人を追いつめて手錠をかけても、それから犯人を取り調べて検察庁に送検し、検察官によって、起訴しなければならないのですから、どんなに急ぐにしても、ドラマのように時効まで後1時間という時点で手錠をかけたのでは普通はとても間に合いません。

 「公訴時効」の期間は、刑事訴訟法250条に規定があります。

 1.死刑にあたる罪については25年
 2.無期の懲役又は禁錮にあたる罪については15年
 3.長期15年以上の懲役又は禁錮にあたる罪については10年
 4.長期15年未満の懲役又は禁錮にあたる罪については7年
 5.長期10年未満の懲役若しくは禁錮又は罰金にあたる罪については5年
 6.拘留又は科料にあたる罪については1年

※なお、最近の法改正で、死刑に当たる罪については15年から25年に、無期の懲役又は禁錮に当たる罪については10年から15年に延長され、また、長期15年以上の懲役又は禁錮に当たる罪については10年の時効期間が設けられました(平成17年1月1日に施行)。ネット上の記事では、古い法律に基づいて解説されているものも多いですので(改正前に書かれた記事であれば、当然なのですが)、ご注意ください。なお、この改正に関して付則で、改正前の犯罪については改正前の時効期間が適用されることに決められています。※

 ここに書かれている長期何年とか、死刑などという刑ですが、刑法などに書かれている刑の種類、期間が基準です。決して、それぞれ個別の犯罪事件について言い渡される刑(処断刑)によって変わるのではありません(でなけりゃ、判決してからでないと、時効期間がわかりませんよね。)。例えば、詐欺罪であれば、10年以下の懲役ですから一番長期は10年となり、(上記5の長期10年未満ではなく)長期15年未満の懲役の罪として、7年が「公訴時効」の期間ということになるのです。窃盗罪も同じですね。殺人罪だと重いのは死刑ですので、(改正前は15年でしたが)25年が「公訴時効」の期間となります。

 国外へ逃げている場合などの時効の停止については刑事訴訟法255条、共犯がいる場合の時効の停止については同法254条2項を参照してください。
 他にも、細かいことを言えば、期間の起算点である「犯罪行為の終わったとき」(刑事訴訟法253条1項)というのはいつからか、など種々の論点があります。
 
                                           以  上
(このコラムは、川村がブログのエントリー(記事)として書いたものを構成し直したものです。)
             
春陽法律事務所 弁護士 石田文三 川村哲二 昇慶一
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